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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1071号 判決 1948年12月22日

主文

本件各上告を棄却する。

被告人永島辰次郎に對し當審の未決勾留日數中三〇日を本刑に算入する。

理由

被告人等三名の辯護人稻本錠之助の上告趣意第一點について。

本件記録によると、被告人等三名は共謀の上、昭和二二年一月一四日午前一一時頃神奈川縣相武臺所在米軍兵舎内で、連合国占領軍將兵所有の現金九百圓外雜品二〇數點を窃取したという事実について、昭和二二年一二月二四日東京地方裁判所え起訴され、翌二三年二月九日公判の審理が行われて即日有罪の判決を言渡され、同月一〇日及び一三日東京高等裁判所へ控訴を申立て、同年六月三〇日控訴公判の審理を受け、同年七月九日第一審と同様に有罪の控訴判決を言渡されたことが明らかであるから、本件の審理については、公訴の提起から第二審判決の言渡まで約六箇月半を費している。その間裁判所の審理自體は、比較的順調に進行しているのであるが、第一審の判決言渡後控訴審の第一回公判期日までに、約五箇月を要している。これは、公知のごとく刑事事件の輻輳と裁判所職員の手不足等による上訴記録の整理及び送致の遅延に基因するものと推知されるが、これがために本件の審理裁判が迅速を缺いたかの嫌いを生ぜしめている。もっとも、本件の裁判が、裁判の迅速を保障する憲法第三七條第一項に違反するかしないかは、更に諸般の事情を究明した上でなければ、にわかに斷定することができない。ところで、いま、本件の裁判が迅速を缺き憲法の條規に違反したものと假定して、その結果はどうなるであろうか。裁判の遅延が擔當裁判官の責に歸すべき事由による場合には、その裁判官は、司法行政上その他の責を問われることのあるべきことは當然であろう。しかし、裁判に迅速を缺いた違法があるからといって、第二審判決を破棄すべきものとすれば、差戻すの外はない。しかし、そうしたならば、裁判の進行は更に一層阻害されて、憲法の保障はいよいよ裏切られる矛盾を生ずるであろう。それ故裁判が迅速を缺き憲法第三七條第一項に違反したとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、上告の理由とすることができないものと解さなければならない。されば、論旨は採用することができない。(その他の判決理由は省略する。)

以上第一點については、裁判官全員の一致した意見によるものである(中略)。

よって、刑事訴訟法第四四六條に從い、なお被告人永島辰次郎に對しては、刑法第二一條により當審における未決勾留日數中三〇日を本刑に通算して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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